もうひとりの主人公

お題「読書感想文」

 

つい先日、中学校1年生だか2年生だかの時の読書感想文のお題に選んだ本を読み直した。
タイトルは「消えた一日」。父子家庭で育つヴィレムという男の子が、ある日起きたら透明人間になっていた・・・というお話。
どうやら昨日の出来事が関係しているらしいのだけど、その時の記憶がすっぽり抜け落ちている。
一番身近な存在である父親からも認識されず、いたたまれなくなったヴィレムは誰かに助けて欲しいと願う。
そうしたらかの有名なピーターパンが出てきて、ネバーランドに連れて行ってあげると言い出す。
この物語、ヴィレムが主人公なのだけど、隠れ主人公というか、もう一人の主人公と言えるのがこのピーターパンだと思う。
ピーターパンというのは、ネバーランドの住人で、いつまで経っても子供のままでいる不思議な存在。
あちこち探検したり、海賊と戦ったり、いつでも冒険している男の子。
私はピーターパンの原作は読んだことがなくて、でも子供の頃、世界名作劇場で放送されていたピーターパンは見たことがある。
最初の回で、ウェンディとマイケル、ジョンの三姉弟は、突然現れたピーターパンに誘われるがままに、ネバーランドへと冒険の旅に出かける。
子供にとっては、日常の中で突然現れた非日常。変わり映えのない毎日よりも、ネバーランドでのめくるめく冒険の旅の方が、子供にとっては魅力的だよね。
でもこの消えた一日では、ヴィレムは現実世界に自分の居場所がなくなったと思っても、ネバーランドに行くことを拒否する。
最初はついていこうかと思うんだけど、行く直前になって、どうしても父親のことや、これまでの生活を思い出してしまい、躊躇する。
ピーターパンの原作では、それじゃあ話が進まないんだけど、実際はそうやって葛藤するものなんじゃないかと。
ヴィレムは少年だけれど、でも大人の気持ちに近いと思った。逃げたら楽だと知っているけど、でもいろんなしがらみがあって、逃げられない。逃げちゃいけないとわかっている。
中学生だった頃、この本を読んでどんな感想を抱き、どんな文章を書いたのかはもう覚えていない。
でも当時読んだ時の感想と、今読んだ時の感想ではまったく違うだろうな。
これ、一応児童書の類いらしいんだけど、大人が読んでも難解。でも繰り返し読みたくなるような、そんな不思議な本だと思う。